空間体験の幅を持たせつつ心地よい住まいを設計するのはそう簡単ではありません。今回はシンプルな住宅を追求しつつもちょっとした仕掛けによって空間の広がりや複雑さを創り出した+0 ATELIER | プラスゼロアトリエによる住宅を紹介したいと思います。
白を基調とした仕上げの異なる控えめなファサードをもつこの住宅は、ボリュームを重ねています。開口部がほとんど設けられていない幾分マッシブなボリュームが上階と下階で軸を振ることで軽減されています。上階の突出部分が玄関ポーチの庇の役割を果たし、空間の広がりを持たせています。
下階は水平方向、上階は垂直方向を強調したファサードとボリュームのずれが作り出す空隙が微妙な表情を建物にもたらします。周囲の環境を映すスクリーンのようなファサードのモノクロなイメージ。外に対して閉ざしていながら同時に対話する建築と言えるでしょう。
上階に現れる不思議な空隙に開口部が設けられ、一風変わった空間体験や視界の面白さが味わえそうな住宅です。これも建物内部に空間の広がりや奥行をもたらす装置でしょうか。
プライバシーを確保した中庭には石が敷き詰められています。つるんとしたサーフェースで構成される空間に対して石のテクスチャーが相反する表情をもたらします。シンプルな中庭空間からはリズミカルな階段の側桁がまるで幾何学模様のアートのように額に収まって見えますね。
振られた空間の軸によって生まれるアシンメトリーな中間領域では木板の縁側や木柱がアクセントになっていますね。上階のテラスの手摺は細パイプの軽い素材にすることで開放感があり視界の広がるバルコニーですね。
ウッドフローリングは重厚感のある色調を選ぶことで、単調になりがちな空間にアクセントを与えています。寝室から続く屋根付きのテラスはどんな風に使われるのか想像がふくらみますね。
中庭に面した開口部とオ—プンな階段によって玄関周りが開放的な空間になりました。上下階を行き来するのが楽しくなるような階段ですね。ビルトインの収納ですっきりとした玄関です。また無機質な色調に暖かみのあるウッド素材が引き立ちます。
面白いのは1階の階高をあえて低く抑えているところです。2階にリビングを含むメインの生活空間があることで何度も行き来するであろうという理由からだそうです。階段も勾配をなだらかにして負担を軽減しています。
天井までの引き戸を開ければ玄関ホールと繋がる和室。天井の低さに合わせて雪見窓ほど低くもない窓が絶妙なプロポーションで中庭に向って設けられ、空間の広がりを出しています。
上階の生活空間です。スリット状に設けられたトップライトがそれとなくリビングエリアとダイニングエリアを区切っています。さらに空隙に対して設けた窓も含め、十分な採光が確保できる明るく開放的な2階です。 畳が敷かれたリビングエリアでは足を伸ばしたり寝転がったり家族みんながのんびり過ごせそうですね。
キッチンスペースとの間は天井まで届かない壁で仕切ったりスリットを入れることでお互いの気配を感じることのできる緩やかに繋がる開放的な生活空間になっています。閉じた外観からは想像できない内部の広がりをうまく表現した住宅ですね。
写真:平井美行